先日、ターニャさんの絵画展の会期途中に開催されたイベントを撮影した。
この日は、沖縄ンラテンバンド「カチンバ」の音楽と、中川西さんとのトークショー。
そして、カチンバの音楽に合わせて、ターニャさんがライブペイントをするという時間もあった。
音楽が鳴って、
絵が描かれて、
人が話して、
そのうち会場のお客さんまで音楽に合わせて踊り始める。
ひとつの場所に、いろんなものが同時に生まれていく。
そんな、とても動きのある時間だった。
その撮影を終えたあと、カチンバの皆さんやターニャさんから、
「みんなの表情がすごく生き生きしている」
と言ってもらった。
自分としては、特別なことをしているつもりはなかった。
いつも通り撮っていた。
でも、その言葉をきっかけに、改めて考えてみた。
自分は、何を見てシャッターを切っているんだろう。


「いい表情」を探しているわけじゃない
撮影中、
「今、いい顔をした」
と頭で判断してからシャッターを押しているわけではない。
むしろ、
「ん?」
というくらいの感覚に近い。
ほんの一瞬、何かに引っかかる。
笑顔になったとか、
盛り上がったとか、
そういう分かりやすい変化だけではなくて、
その人の感情がふっと表に出た瞬間。
場の空気が変わった瞬間。
その人らしさが、一瞬だけ現れた瞬間。
そういうものを察知している。
そして、頭で考えるより先に、カメラを持つ手が動く。
これは、たぶん「技術」というより、長いあいだ人を撮ってきた中で身についた、ひとつの感覚なんだと思う。


表情は、顔だけじゃない
これは、ずっと思っていること。
表情って、顔だけじゃない。
たとえば手。
何かを話しているときの手。
絵を描いているときの手。
音楽を奏でている手。
誰かに触れる手。
その人の感情は、手にも現れる。
身体全体にも現れる。
踊っているときの身体。
音楽を聴いているときの姿勢。
ふっと力が抜けた背中。
誰かを見つめる後ろ姿。
そういうところにも、その人の「表情」がある。
「表情」という言葉を考えてみると、「情」が「表」に出る、とも読める。
内側にあるものが、ふっと外側に現れる。
それが表情なんじゃないかなと思う。
だから、自分が捉えたいのは、顔だけではない。





反射するように撮る
撮影中は、ずっと何かを感じ取っている。
そして、
「あ、今だ」
と考える前にシャッターを切ることがある。
完全に反射。
たとえば今回のイベントなら、音楽に合わせて誰かの身体が動いた瞬間。
ターニャさんの筆が大きく動いた瞬間。
演奏している人の表情が変わった瞬間。
お客さんの中に、楽しさが一気に広がった瞬間。
そういうものを見つけると、身体が先に反応する。
これは、ウェディングを撮っていた頃からずっとあった感覚でもある。
誰かが泣いた。
笑った。
抱きしめた。
そういう出来事が起きてから撮るのではなくて、
「なんか、今から何か起こりそう」
という気配を感じて、先にカメラを向けていることも多い。


「予期する」ということ
撮影には、反射だけではなく「予期」もある。
ただし、頭で、
「次はこうなるはず」
と計算しているわけではない。
もっと動物的な勘に近い。
「なんか起こりそう」
という感覚。
だから、完全に受け身でもない。
その場で起きていることを追いながら、ほんの少しだけ先の気配を感じている。
その感覚は、ドキュメンタリーを撮るときに特に大きくなる。

撮影者の緊張と集中
撮影するときの「緊張と集中」について考えてみた。
動画を撮る人。
一般的な写真を撮る人。
そして、ドキュメンタリーを撮る人。
同じカメラを使っていても、集中している場所が少し違う気がしている。

インタビューでも同じ
これは、インタビューの撮影でも同じ。
話している人ができるだけ夢中になって話せるように、場の空気をつくることはもちろん気にかけている。
でも、その途中で、
「あ、今、この人の軸にあるものが出た」
と思う瞬間がある。
本人は何気なく話している。
でも、ふっと表情が変わったり、
声のトーンが変わったり、
身体の動きが変わったりする。
そういう瞬間は、頭で考えるより先に手が動いている。
シャッターを切ってから、
「ああ、今のだったな」
と気づくこともある。



写真に残るのは、その瞬間だけじゃない
写真は、一瞬を切り取るもの。
でも、その一瞬の中には、その人がそのとき感じていたことや、その場に流れていた空気まで写り込むことがある。
今回のイベントで言えば、
音楽に身体を揺らす人。
踊る人。
絵を描く人。
演奏する人。
話をする人。
それを見ている人。
それぞれの「情」が、いろんなところから外に出ていた。
だから撮っていて面白かった。
表情を撮るというのは、笑顔を集めることではないんだと思う。
その人の内側にあるものが、ほんの一瞬、外側に現れたところを見つけること。
顔だけじゃない。
手も、
身体も、
背中も、
動きも、
その場の空気も。
そこに現れる、いろんな「表情」を撮る。
たぶん、自分が人を撮るときにやっているのは、ずっとそういうことなんだと思う。



